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 昨夜遅く、静岡県知事選挙で、民主・社民・国民推薦の川勝平太候補が激戦を制した。静岡県という保守王国で、民主系が2陣営に分裂しての選挙だから、自民・公明推薦の坂本由紀子候補の「圧勝」という結果になっても、従来であれば不思議ではない。しかし、ぎりぎりの接戦だったとはいえ、野党候補に軍配があがったことは、地方からも麻生内閣の「牛のよだれ的解散先延ばし」の政権運営に不満が集積し、「そのまんま東」を救世主として崇める自民党の末路に多くの有権者が愛想を尽かしていると言えるだろう。東京都議選の事前予想も報道されている。民主党に勢いがあり、自民・公明の過半数確保が難しいとも言われているが、民主党以外の野党がどれだけ善戦するかが、全体情勢を決める鍵になる。「大きな時代の変化」が止めようもない波となってうねりだしているのを、街頭演説や遊説の現場で感じている。

 さて、この間の国会審議で大きな反響を受けている児童ポルノ法改正案について、保坂展人事務所にかかわるスタッフによる「論点整理」が出来上がった。少々、長くなるがぜひ議論を深めるために役立ててほしい。

児童ポルノ禁止法改正案の最新版「論点整理」

 児童買春・児童ポルノ禁止法の改定案が6月26日、衆議院法務委員会で審議された。「単純所持」の処罰規定の導入を目指した与党(自公)案と、「取得罪」を対置した民主党案が提出され、保坂は与党案を中心に問題点・疑問点を追及した。

 ブログの読者や創作物規制に反対するコンテンツ文化研究会のメンバー、そのほか様々な方々から、メールやトラックバック、手紙、電話、直接会ってのやりとりなどのかたちで多くの声が寄せられている。

 そこで、改定案の何が問題なのか、みなさんの意見を参考に論点整理を行った。以下は、そのメモだ。新たな視点や論点があれば、ぜひ事務所に意見を寄せてほしい。

1.恣意的な運用を許すあいまいな定義

 たとえば、アメリカの合衆国法典第18編第1466A条(児童の性的虐待のわいせつな視覚的表現)では、児童ポルノの定義を「性的に露骨な行為をしている児童を描写するものであって、わいせつであるもの」「あからさまな獣姦若しくはサディスティック若しくはマゾヒスティックな虐待又は同性間であると異性間であるとを問わず、生殖器と生殖器、口と生殖器、肛門と生殖器、口と肛門(の間)を含む性行為をしている児童又は児童に見える者の姿を描写するものであって、純文学的、芸術的、政治的又は科学的な価値を欠くもの」と、それなりに厳密に規定している。

 一方、日本の現行法の児童ポルノの定義はこうだ。

 一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態(1号ポルノ)
 二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの(2号ポルノ)
 三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの(3号ポルノ)

 アメリカのような具体的な定義はなく、主観的・感情的・曖昧な要件のみだ。なかでも3号ポルノは「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という漠然としたもの。(性的振る舞いからは距離があると思われる)ソフトヌードのような表現まで含まれかねない。仮に、国際基準に合わせるというのであれば、定義の厳密化・厳格化が必要である。

 その危惧が杞憂とはいえないことがはっきりしたのは、6月26日の与党案提出者の答弁でだった。

○枝野委員 (中略)例えば宮沢りえさんの「サンタフェ」を初めとして、本法施行のずっと前から、十八歳以上なのか、十八歳未満なのか。調べれば「サンタフェ」はわかるのかもしれません、撮影当時十七歳だったのか、十八歳になっていたのか。あるいは、初期の関根恵子の映画とか、いろいろなものがありますよ。十八歳未満の特に女性が裸になっている、しかも、大手の一般の出版社や大手の一般の映画会社から配給されたDVDなどが出ているというものはあります。(中略)
 こういったものを、自分の家の中にあるかどうか探して、全部捨てろということを与党案は言うんですね。

○葉梨議員 (中略)大手の出版社が出したからといってオーソライズされるわけじゃないんですよ。大手の新聞社だって時々間違いを書くんです。ですから、その意味でいったら、社会の中で、十八歳未満の児童のポルノ、これについてはしっかり廃棄をしていきましょうというようなことがあれば、それは、この一年間の猶予期間があるわけですから、そういったものをやはりちゃんと廃棄していくということは、私は当然のことじゃないかと。(中略)


 与党の法案提出者は、〈宮沢りえさんの「サンタフェ」を1年以内に廃棄しろと答弁した旨の(引用者註・新聞)記事が載り、私自身目を疑った。/私は、そんな直截的な答弁は行っていない〉〈私は、あくまで改正案の提出者であり、現行法の定義規定について、権威のある解釈や答弁を行う立場にはない〉と自らのブログで弁明した。

 海外とは定義が異なるのに、現行の定義のまま、海外でも単純所持規制が行われれているから日本にも導入するというのは乱暴だ。答弁者が言及したジャニーズの上半身裸の姿はもとより、アイドルの水着写真まで児童ポルノに含まれかねない。与党案の提出者にこのような“混乱”が生じるのは、まさに定義が曖昧だからである。

1-1 恣意的な運用が膨大な“犯罪者”を生むおそれ

 法務委員会では、「サンタフェ」が児童ポルノか否か、児童ポルノであれば法施行後1年以内に廃棄しなければならないとする議論が行われた。

 「サンタフェ」のような合法的に市販されていた出版物が「3号ポルノ」とされ、単純所持が禁止されれば、「自己の性的好奇心を満たす目的」で所持していなかったとしても、対処を求められる人々は膨大な数になる。購入者はもとより、在庫を持つ出版社や古書店、ネガ、紙焼きなどを保管しているカメラマン、あるいは正当な収集活動を行っているはずの図書館もグレーゾーンとなりかねず、規制対象は広範囲なものになってしまう。

 より一般的な月刊誌、週刊誌にも問題とされかねない写真が掲載されているのではないか。児童ポルノと認識しないまま保存・保管しているであろう多数の人々が恐慌を来しかねない。

1-2 3号ポルノの定義によって映像作品にも多大な影響

 また、過去の映像作品への影響も甚大だ。

 たとえば、第6回日本アカデミー賞を受賞するなど高い評価を受けている「転校生」では、当時16歳の女優の上半身裸の場面がある。第1回ゴールデンラズベリー賞を受けた「青い珊瑚礁」では当時14歳のブルック・シールズが全裸で海を泳いだり、全裸で抱き合うシーンがある。有名女優が16~17歳で出演した映画にも全裸、半裸、性行為を思わせるシーンがあった。このような映像作品も児童ポルノにあたるのならば、視聴者が保存しているビデオテープ・DVDはもとより、映画会社やテレビ局が保存しているマスターテープまで廃棄しなければならないというのだろうか。

1-3 曖昧な定義が警察の恣意的捜査を許すおそれ

 反戦運動に取り組んでいたイギリスのミュージシャンがイラク戦争直前に、児童ポルノ閲覧の容疑で逮捕され、後に証拠不十分で釈放されたという。政府の政策に反対する者に対して「児童ポルノを閲覧していた」とでっち上げることで、運動に打撃を与えようとしたと疑われかねない事件だった。

 日本の現行法は イギリスの定義よりも曖昧であることから、与党案ではソフトヌードであっても「みだり」に所持することは禁止され、さらに、「自己の性的好奇心を満たす目的」で所持していたと見なされれば摘発されかねず、その結果、当該者が社会的に抹殺されるに等しい事態となりかねない。

 警察、あるいは為政者にとって都合の悪い政治的、社会的な主張を封じ込めるために単純所持規制が利用されることはないと言えるのか。

 また、本人の意志とはかかわりなく送られてくるスパムメールのなかに児童ポルノがあったとして、そのことを理由に摘発されることはないのか。政治的に対立していたり、単に気にくわなから陥れてやろうと、児童ポルノを送りつけ、そのことを送り主が密告して打撃を与えるということも起きてしまうかもしれない。単純所持規制がえん罪の温床になりかねないのではないか。

2 表現の自由・内心の自由を侵害しかねない単純所持規制

 法務委員会では、保坂が次のように発言した。

○保坂委員 (中略)そもそもこの法律の保護法益そのものは、児童ポルノの被写体となって、非常にその人権を侵害されて、取り返しのつかない傷を負っている子供たちをきちっと救出していこうということであり、その点に我々も全く異議はないし、もっともっと進めるべきだ、足らない点があれば足すべきだと思っているんです。

 他方で、「サンタフェ」も含めて、過去出版された出版物を、あるわけですよね、百五十万部ぐらい売れたらしいですから。(中略)そういうものも全部蔵出しして、一年以内に焼き捨てよと。あるいは、ごみで出したら、これまた提供罪に問われてもいけないしというようなことが、日本は過剰同調社会ですから、そこまで法律が求めていなくても、これはまずいぞというようなことで、どんどんどんどん本来の保護法益とは違う方向に走り出していき、これは最終的には内心の自由やあるいは表現の自由に重なってくる。現に戦前はエロ、グロ、ナンセンスの規制から始まっていったわけですから、思想の統制というのは。

 私は、児童ポルノがいいなんということは一つも思いません。しかし、それが拡張されていくことには危惧を感じる。


 戦前のエログロナンセンスに対する規制は、治安維持法などの言論規制法にたどり着いた。刑法学者の中山研一氏は、かつて「ジュリスト」に「治安立法」にかかわる論考を発表し、その中で「いわゆる機能的治安立法(典型的な治安立法の形をとらず、実質的に治安目的に機能する立法)の存在とその増大傾向に着目しなければならない」と書き、この文面について「治安の維持強化のためには、あらゆる現存の法律が有機的に利用されるのであり、問題は、運用者による利用の意志と、その利用可能性および程度にかかっている。したがって、それ自体政治的色彩を持たない法律であっても、立派に治安立法たりえるのである」と注釈していた。

 法案提出者の意図はどうあれ、改定後の児童ポルノ禁止法が「機能的治安立法」と化すおそれがある。単純所持規制は、本来の意図を隠した治安強化のための「利用意志」はないのか、治安維持のための「利用可能性及び程度」の増大を目指しているということはないのか。

 このような運用がなされれば、表現の自由や内心の自由はことごとく侵害されかねない。

2-1 「自己の性的好奇心を満たす目的」は誰が判断するのか

 法務委員会の審議で与党案提出者は、次のような説明も行った。

○葉梨議員 (中略)みだりに児童ポルノを所持すること自体を罰則をもって禁止するべきだという意見もあるんですけれども、基本的にこの法律というのは、ペドファイル、小児性愛者との戦いということでございますから、自己の性的好奇心を満たす目的で所持をしているというような場合を罰則をもって禁止しているというわけなんです。

 犯罪として問われるのは、その行為・行動に対してのものである。犯罪を犯した「ペドファイル」「小児性愛者」は当然、法的な咎を受けなければならない。だが、心の中で何を思うかは、まったくの自由だ。心の中だけで夢想することが犯罪になるわけがない。「ペドファイルとの戦い」という勇ましい発言に、内心の自由はどうなるのかという不安を抱かざるを得ない。

 そもそも「自己の性的好奇心を満たす目的」を、どう客観的に証明するのだろうか。客観的事実のないままに「性的好奇心を満たす」ためという“感情”を裁くのであれば、個人の内心の自由にまで立ち入ることになるのではないか。

2-2 心の中を裁く共謀罪との親和性

 心の中を裁くという点では共謀罪との共通性がある。法務委員会の質疑では次のようなことも明らかになった。

○保坂委員 (中略)前田参考人に伺いたいんですが、いただいた資料(引用者註・法務委員会で配付された資料)の中に、この六月の初めでしょうか、法改正の次に来るもの、執行についてということで、エドワード・ショーというアメリカのFBIの駐日代表の方が報告をされて、シンポジウムがあったんだなということがわかりましたけれども、実はアメリカには、児童ポルノ関係で共謀罪もありますね。伝え聞くところによると、そのFBIの方などからは、やはりこの児童ポルノの捜査のためには共謀罪が必要だというような発言もあると聞いているんですが、そのあたりはどうなのか、教えていただけますか。

○前田参考人 今の御質問の趣旨、ちょっとわからなかったんですが、ショーさんと一緒に研究会をやったわけではないのであれですけれども、一般論としてお答えしますと、やはりアメリカの現場では、本当に児童ポルノに対して厳しい感覚を持っていて、徹底して調べる。その捜査官の人の話を伺ったことがあるんですが、そのためにはやはり共謀罪というのは有効なツールだと彼らが考えているということは容易に推測できるというふうに思っております。


 首都大学東京法科大学院教授の前田雅英氏は、日本ユニセフ協会の主催した「なくそう!子どもポルノ」キャンペーンセミナー『法改正の次にくるもの~法執行の取り組みと課題について~』(2009年6月4日開催)で、共謀罪の必要性を説いたとされるFBI駐日代表と同席していた。アグネス・チャン氏も出席していたようだ。

 銃の単純所持規制には消極的なアメリカ政府ではあるものの、シーファー駐日大使はマスコミを通じて児童ポルノの単純所持規制を訴え、あるいは議員会館を訪れて国会議員にロビー活動するなど、法規制の強化を後押ししていた。共謀罪とのかかわりあいが疑われるところだ。

2-3 通信の秘密を侵害するネット規制

 与党案では、「インターネットの利用に係る事業者」に対して、努力規定を設けている。だが、これが憲法上の権利である「通信の秘密」をないがしろにする蟻の一穴となりかねないのではないか。そもそも、インターネットではリアル世界以上に匿名性を保持することはできない。全ての市民が監視下に置かれる世界を描いた小説「1984年」、あるいはテロや犯罪抑止のためにプライバシーが奪われでしまう世界を描いた映画「エネミー・オブ・アメリカ」などのストーリーが絵空事ではない未来が待っているのではないか。

3 その他の論点

3-1 単純所持を禁止することと犯罪抑止の関係

○保坂委員 (中略)法務省にお聞きしたいんですけれども、この児童ポルノの単純所持がないというのが問題だという声がずっと強いんですね。そうすると、単純所持規制が生まれた国で、それ以前の子供対象の性犯罪発生率みたいなものがそこで抑止された、横ばいになったり、あるいは減ったというような例はあるんでしょうか。もし数字が言えたら教えていただきたい。

○大野政府参考人 諸外国における児童に対する性犯罪の動向に関する統計資料でございますけれども、私ども、手元に有しておりませんので、今の御質問に対してお答えできません。


 法務省刑事局長の答弁で明らかになったのは、単純所持の禁止が実際の犯罪を抑止しているかどうかはいっさい分からないということだ。

 ダガーナイフを禁止したところで、7月4日には高校生が級友を包丁で刺し殺してしまうという痛ましい事件が起きてしまった。では、今度は包丁を禁止するというのだろうか。原因と結果を倒錯しているのは児童ポルノも同じことではないか。

3-2 日本は児童ポルノ大国というのはほんとうか

 法務委員会では次のようなやりとりも行われた。

○保坂委員 (中略)二〇〇四年の資料なんですけれども、これは、イタリアの児童保護団体のテレホノ・アルコバレーノという団体が、サイト上の一万七千十六件の児童ポルノサイトをいわば調べた。そして、一位はやはりアメリカであった、一万五百三件、二位は韓国で千三百五十三件、三位がロシアで千二百三十二件で、実は日本は、ブラジル、イタリア、スペイン、チェコの後の八位で、数はそう多くないですね、百六十五件。
 この間の報道で、日本は世界に非常に恥ずかしい児童ポルノの発信国だ、こういう言い方がありましたが、たまたま私が手にした資料なんですが、さらに新しい数字等でこういった傾向は大幅に変わったのかどうかということをお願いします。

○前田参考人 正確な、オフィシャルな統計資料みたいなものというのはないので、やはり任意団体的なものが集められたものなんだと思うんですね。
 ただ、私の印象も、日本のサイトの数とかが世界で物すごく多いということではないんですが、よくスウェーデンとかに指摘されるのは、画像の発信源ですね。それがいろいろ回り回って、ネットというのは世界じゅうに伝わっていくわけですけれども、児童ポルノ画像の撮影をして、それを流す源として日本が非常に多いという話はよく出てくる。
 ただ、(中略)数字的なもので、今、日本の順位がどう変わってきているというようなことはちょっと持ち合わせていないので、申しわけないです。


 イタリアの児童保護団体の調査の信頼性までは検証しきれていないので、全面的に依拠することはできないものの、規制を推進する団体が「日本が児童ポルノ大国だ」と主張してきたことに疑問符を付けざるを得ないのは間違いない。

3-3 筋違いな創作物規制

 与党案は「創作物と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究」をするとしている。ドラえもんのしずかちゃんのお風呂シーンがよく取りざたされているが、そのほかにも、手塚治虫や藤子不二雄の小中学生がよく読んでいる(読んでいた)マンガや、柳沢みきお、村生みお、矢沢あいなどのハイティーンがよく読んでいる(読んでいた)マンガ、あるいは少年誌や青年誌を飾った永井豪の一連の作品などには、少年・少女のエッチな場面が数多く登場している。

 実在の被害者が存在しない架空の表現が性犯罪を誘発しているという研究結果が出たならば、このような作品の一切を規制するつもりなのか。

 それならば、刀による斬り合いの場面がある時代劇、拳銃による人殺しが頻発する刑事ドラマ、暴力的な行為を想起させる格闘技番組等々も児童への暴力行為を誘発するとして禁止するとでもいうのだろうか。

3-4 子ども自身が撮った写真の扱いはどうなるのか

 子ども自身が撮った写真であっても、児童ポルノと見なされ、摘発の対象となるとされている。現に逮捕された青少年もいる。子ども自身を児童ポルノの被害から守るとしているにもかかわらず、犯罪者とされるのには違和感がある。また、被害を受けた少年・少女も警察の取り調べを受けている。福祉的な対応を求めるのならば、被害児童・加害児童には取締機関たる警察は関与せず、民主党案のように厚労省を筆頭にした行政機関が担うべきではないか。

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